ファクタリングの市場規模と今後の需要について

日本におけるファクタリングの市場規模
目次
日本におけるファクタリングの市場規模
オランダに本部があるファクタリング団体FCIの調査データによれば、2016年における日本のファクタリングの市場規模は約500億ドルです。
これに対して、アメリカは約900億ドルと約2倍、ファクタリングの発祥の地としての歴史を持つヨーロッパにおいては、イギリスが約3,260億ドル、フランスが約2,680億ドル、ドイツが約2,160億ドル、イタリアが約2,080億ドルと圧倒的な差があります。
日本では2011年に約1,112億ドルであったのをピークにファクタリングの市場規模が減少していき、2016年に500億ドルを切る495億ドルにまで下がった経緯があります。
2013年には金融庁が中小企業などの経営改善や事業再生のための資金づくりや新たなビジネスにチャレンジするための資金づくりのために売掛金担保融資の積極的な活用を推進しましたが、その後も減少傾向にあるのが実情です。
もっとも、その後、経済産業省中小企業庁が債権の積極活用を提言したことで、2017年~2018年にかけてファクタリング市場規模が大きく成長を見せてきました。
市場規模の拡大を受け、大手の金融機関系のファクタリングサービスに加えて、中小さまざまなファクタリング会社が市場に参入しています。
にもかかわらず、ファクタリングの市場規模がデータの数値としては縮小しているのは、調査対象になっている国際ファクター連盟に加盟しているメガバンク系の大手ファクタリング会社の取引額が減少し、それに代えて柔軟な対応が強みで中小零細企業や個人事業主でも利用しやすい、中小規模の民間ファクタリング会社が大きくシェアを伸ばしている影響が大きいのではないでしょうか。
日本でファクタリングの市場規模が成長してきた理由
日本では手形取引とファクタリングに似た裏書譲渡や手形割引の商慣習が根付いており、従来はファクタリングはあまり普及していませんでした。
ですが、近年、IT化の進展に伴い、手形証書を使ったアナログな取引が減少傾向にあります。
東京商工リサーチによる2018年「手形・でんさい」動向調査によれば、国内最大規模を誇る大阪手形交換所の交換高は2017年には185兆5,250億円の市場規模があったのが、2018年は85兆8,775億円と100兆円あまりも減少しています。
日本全体においても、2018年の手形交換高は261兆2,755億円となり、前年比30.1%減となりました。
一方、国の方針として紙の手形から電子手形(でんさい)への切り替えが推奨されたことで、電子手形の市場規模は2017年の14.9兆円から2018年に18.4兆円となり、前年比で23.8%も増加しています。
もっとも、手形交換高は2017年の374兆円から261兆円に113兆円減少しており、でんさいの3.5兆円増加では、手形交換高の減少分を吸収しきれていません。
減少分はファクタリングをはじめ、フィンテック系技術の進化に伴う新たな資金調達や信用保全の方法への需要に取り込まれていると見られています。
コロナショックを受けてのファクタリングの市場規模と今後の需要の行方
世界的な新型コロナウイルスの感染に伴い、営業自粛要請や移動制限、会食控えなどが起こり、飲食店や小売店、観光業などの売上が減少し、資金繰りが悪化する企業や店舗が増え、倒産件数も増大しています。
日本で初めて緊急事態宣言が出されたのが2020年3月で、この時期の前後から一気に経営が冷え込む企業や個人事業主の店舗が増えていきました。
一方、2020年4月には改正民法が施行され、従来はファクタリングに制限をかけてきた、債権譲渡を制限する特約付きの債権であっても譲渡ができるようになったのです。
日本では売掛金の取引において、第三者には譲渡しないといった特約を付けるのが商慣習として根付いていました。
そのため、これまではファクタリングを利用する際は、譲渡禁止特約が付いていない売掛債権に限られていたのです。
法改正と同時に、経済産業省が資金調達目的の債権譲渡は譲渡禁止特約が付いていても契約の解除や損害賠償の対象とはならないこと、売掛先にとって譲渡されても特段の不利益がないにもかかわらず、ファクタリングを行った企業に対して、取引の打ち切りや解除を行うことは権利濫用にあたるという法務省の見解を公表したことで、譲渡制限特約の有無を問わず、ファクタリングがしやすい環境が整うことになりました。
コロナ禍で資金繰りが悪化した企業や個人事業主が増える中、民法改正と法務省の見解がファクタリングの需要を増やす後押しになっています。
今後のファクタリングの市場規模の行方は
コロナ禍による資金繰りの悪化で、企業や個人事業主などのファクタリングに対する潜在需要は増大し続けることが見込まれます。
もっとも、ファクタリング会社が審査をしていくうえで、大きな課題や壁に直面しているのも事実です。
コロナショックに伴い、資金繰りが悪化してファクタリングをしたい企業や個人事業主だけでなく、売掛債権の相手方である売掛先も経営不安のリスクが高っているためです。
ファクタリング会社としては売掛債権を買い取っても、売掛先から回収できないリスクがあります。
そのため、ファクタリングの市場規模は潜在需要はあっても、実際には先細りしていくのではないでしょうか。
その一方で、潜在需要を目当てにした、違法な闇金業者やファクタリング業者が増大するリスクが懸念されています。
まとめ
日本では独自の手形文化や売掛債権への譲渡禁止特約を付ける商慣習があったため、ファクタリングの市場規模は欧米に比べると小さいものがあります。
もっとも、国の方針として中小企業の資金繰り改善のためにファクタリングを推奨する方針が展開されてきました。
コロナショックで企業や個人事業主などのファクタリングに対する潜在需要は増大が見込まれますが、ファクタリング会社にとっては売掛先からの資金回収リスクが高まっており、このままコロナの終息が見込めない限りは市場規模の先細りが予想されます。